原記事「仮想通貨株の価値評価にNAVを活用する方法(A Layman’s Guide: How to Use NAV to Value Your Crypto Stocks)」の再掲です。
最新の仮想通貨強気相場は、米国株式市場を起点に始まりました。
ウォール街で「仮想通貨保有戦略」が普及し、仮想通貨と株式の連動が進む中で、投資家はどのように株式の価値を評価すべきでしょうか。仮想通貨資産の保有量が多い企業が重要なのか、それとも仮想通貨準備金を着実に積み増す企業に注目すべきなのでしょうか。
最近の米国仮想通貨株分析をフォローしている方なら、純資産価値(NAV)という言葉を頻繁に目にしたはずです。
一部の市場関係者は純資産価値(NAV)を用いて仮想通貨株の割高・割安を判断し、他の投資家は新しい仮想通貨保有企業の株価をMicroStrategyと比較する指標として活用しています。資産形成における本質的なポイントはここにあります。
仮想通貨保有戦略を採用する米国上場企業の場合、保有する仮想通貨1ドルの価値が株主にとっては1ドル以上になることがあります。
このような企業は、デジタル資産の積極的な蓄積や自社株買いを通じて、しばしば時価総額が純資産価値(NAV)を大きく上回ります。
しかし、一般投資家の大半は、仮想通貨プロジェクトにおいて厳密な財務指標を活用した評価を見る機会が少なく、伝統的資本市場の株式にまでその考え方を適用する例はさらに限られています。
そこで本記事は、純資産価値(NAV)の基礎知識を紹介し、仮想通貨と株式の融合に関心を持つ投資家が、企業の事業モデルや評価手法をより深く理解できるよう支援します。
まずは純資産価値(NAV)の基本を解説します。
NAVは仮想通貨特有の指標ではなく、伝統的な財務分析における指標の一つです。主な目的は、
「この会社の1株あたりの本来価値はいくらか?」という問いに答えることです。
NAVの算出式は、企業の総資産から負債総額を差し引き、その結果を発行済株式数で割ります。これにより、株主が受け取ることのできる1株あたり純資産価値が明らかになります。
実例として、ある不動産会社が資産:評価総額10億ドルのビル10棟、負債:2億ドルのローン、発行済株式数:1億株とした場合、1株あたりの純資産価値(NAV)は80ドルです。つまり、会社がすべての資産を売却して債務を返済すれば、理論上株主は1株につき80ドルを手にできる計算です。
NAVは柔軟かつ広く使われる財務指標であり、不動産や投資ファンドのように資産価値の透明性が高く評価しやすい業種では特に信頼のおける内在価値の測定基準です。
伝統的には、投資家は株価とNAVを比較し、株式が割高か割安かを判断します。
一方、米国株式市場で仮想通貨を多く保有する企業の場合、純資産価値(NAV)の意味合いが変化します。
仮想通貨エクイティ分野では、NAVは主に上場企業の仮想通貨保有が株価に与える影響を評価するために用いられます。
ここでは、純資産価値(NAV)は伝統的な「資産−負債」だけでなく、仮想通貨資産価値を積極的に反映する必要があります。仮想通貨資産は価格変動が大きいため、こうした企業のNAVや株価も大きく変動します。
たとえばMicroStrategyのような企業においては、ビットコイン資産が純資産の大部分を占め、NAV計算に大きな影響を及ぼします。
この場合、NAVの基本式は次のように調整されます。
仮想通貨資産を純資産価値(NAV)に含めることで、次のような点に注意が必要です。
市場がビットコイン相場の上昇を見込む際には、楽観的な期待が株価に織り込まれ、NAV以上のプレミアムが発生します。一方、悲観的な相場環境ではNAVの示す価値が機能しにくくなります。
純資産価値(NAV)をより深く理解するために、MicroStrategyの具体例も見てみましょう。
この記事執筆時点(7月22日)の公表データによれば、MicroStrategyは607,770BTC(1BTC=117,903ドル換算、仮想通貨準備金総額約720億ドル)を保有しています。その他資産は約1億ドル、負債総額は82億ドルに上ります。
発行済株式数は約2億6,000万株で、MicroStrategyの1株あたり純資産価値(NAV)はおよそ248ドルです。すなわち、ビットコイン準備金に基づく理論株価は約248ドルとなります。
しかし直近の取引では、実際の株価は426ドルを付けています。
この差は市場プレミアムを示しており、投資家が今後のビットコイン価格上昇を株価に織り込んでいる結果です。
このプレミアムは、純資産価値(NAV)だけでは仮想通貨資産に対する市場心理を十分に説明できないことを示しています。
純資産価値(NAV)に加え、アナリストやオピニオンリーダーは市場純資産価値(mNAV)という指標もよく活用しています。
NAVが株式価値の基準値であるなら、mNAVは変動の激しい仮想通貨市場にも適合した、よりダイナミックな評価指標です。
先ほど説明した通り、NAVは企業の現時点での純資産(主に仮想通貨準備金)に着目しており、投資家心理は反映されません。一方、mNAVは市場志向で、企業の時価総額と純仮想通貨資産価値の関係性を測ります。計算式は以下です。
ここで「純仮想通貨資産価値」とは、仮想通貨保有額から関連負債を差し引いた額です。
下記の表は、その主な違いを整理しています。
先述の計算によれば、MicroStrategyの時価総額は約1,200億ドル、純仮想通貨資産(仮想通貨+その他資産−負債)は約635億ドルで、市場純資産価値(mNAV)は約1.83です。
実際には、MicroStrategyの時価総額は純ビットコイン保有額の1.83倍に相当します。
企業が仮想通貨資産を多く保有するほど、mNAVは市場期待をより的確に捉える指標となり、保有資産が市場でプレミアム評価かディスカウント評価かがわかります。今回の例では、MicroStrategy株は純仮想通貨資産の1.83倍の価格で取引されています。
短期トレーダーが市場心理を追う際、mNAVはより敏感な参考値となります。
ビットコインの価格が上昇すると、仮想通貨関連企業への強気心理が高まって株価がNAVを上回り、その状況を高いmNAVが示します。
mNAVが1を上回れば仮想通貨準備への市場プレミアム、1を下回れば投資家信頼の低下を意味します。
先述の通り、MicroStrategyの市場純資産価値(mNAV)は現在約1.83です。
米国上場企業によるETH保有の増加を受け、各社のmNAV分析は仮想通貨エクイティの割高・割安判断に有力なツールとなります。
Cycle Tradingのアナリストである@Jadennn326ethは、最近、主なETH保有企業の資産・負債構成とmNAVの一覧(先週時点データ)をまとめました。
(出典:@Jadennn326eth、Cycle Trading)
この比較チャートは、2025年の仮想通貨株式市場におけるETH保有企業の価値分布の全体像を示します。
BMNRはmNAV6.98という高い水準でトップに立ち、時価総額がETH保有額を大きく上回っており、バブルの懸念が生じます。ETH価格が下がれば、同社の株価は最も影響を受けるでしょう。BTCSのmNAVは1.53で、市場プレミアムは小さい水準です。
これらのデータを踏まえ、次にリフレキシビティ・フライホイールについて解説します。
この概念はジョージ・ソロスが提唱したリフレキシビティ理論に基づき、2025年仮想通貨強気相場で株価急騰を生む原動力となる考え方です。
リフレキシビティ・フライホイールの要点は次の通りです。企業が新株発行やATM(At-the-Market)型新株発行などで資金を調達し、その資金でETHを購入、NAVとmNAVが増加し、投資家需要がさらに増加して株価が上昇、この循環によって資金調達が容易となり、さらに大規模な仮想通貨購入につながるという、自己増殖的な「雪だるま」サイクルです。
一方で、ETH価格の急落や規制強化(例:SECによる仮想通貨保有戦略の調査)、調達コストの高騰が発生した場合、このフライホイールは逆回転しデススパイラルに陥ります。株価は急落し、mNAVは暴落、投資家に大きな損失が生じる可能性があります。
まとめ
純資産価値(NAV)や関連指標は万能な評価軸ではありませんが、市場分析には不可欠なツールです。
仮想通貨と株式の融合によるチャンスとリスクを見極めるため、投資家はこれらの指標だけでなく、主要仮想通貨の市場動向、企業レバレッジ、成長率なども組み合わせて分析し、高リスクな環境下でもチャンスを見出すことが重要です。